第十二話 山の上の未確認飛行物体

専門学校を卒業してすぐのことだが、1シーズンだけ、とある山小屋でアルバイトをしたことがある。S山とH岳に挟まれた湿原地帯にある山小屋で、5月の初めにやって来たときは、まだ雪がかなり残っていた。水芭蕉の花が咲いているのはこのころで、夏が来て思い…

第十一話 自分を見下ろす

もうひとつ、友人Mの体験談を思い出した。 Mは山好きで、若いころはひとりでも登山に出掛けていた。 山岳ガイドの仕事もしたことのあるUだが、命の危険にさらされたこともあったそうだ。 とある山を、ひとりで登っていたときのこと。Mの水筒は空っぽになって…

第十話 父の間取り図

友人Mが、家を建て直すときのことである。 Mは学生のころ、父親を突然に亡くした。彼の父は小さな会社の社長だったので、Mはわかないながらも一所懸命調べたり勉強したりして、会社を畳んだそうだ。 もともと商才のあったMは、父親とは全く別の道でだが、順…

第九話 身代りの犬

祖母の話。 祖母は心臓が悪かったそうだ。私が物心つくころには、すっかり元気なイメージしかないが、頭髪は真っ白であった。ということは、40代前半にはすでに白かったのだろう。病気の影響かもしれない。 祖母は「エコ」という名の犬を飼っていた。私もう…

第八話 煙

当時、できて間もないプラネタリウムに就職した友人Oから聞いた話。スタッフの間では「なにかいる」という実しやかに囁かれていた。そういった話はどこにでもあるもので、多くは噂話の域を出ないが、頭のどこかに残っていれば、あれもこれも霊の仕業に思えて…

第七話 どこから来た?

ユリ・ゲラーという人がいる。スプーン曲げや、止まってしまった時計を動かして、一躍「超能力者」として一世を風靡した人である。彼が日本で人気絶頂だったころの話。 私の友人Aの話である。彼女は当時、短大に入り、ひとり暮らしを始めたばかりだった。ユ…

第六話 階段の足音

私の実家は、パッチワークみたいな家だった。それは父の努力の成果である。増築を繰り返し、父が、だんだんと大きくした家だ。 あれは高校1年生のときだったか。3階を増築することになり、そこにはふた部屋ーー私と弟の部屋ができた。 ある日のこと、階段…

第五話 入ってきた気配

私は怖い霊体験をほとんどしたことがないが、これは一番怖かった体験である。 私が浪人生だったころの話。ちょうどバブル期で、父が経営する工場も景気が良かった。隣の家が空き家になったので、行く行くは工場を広げるつもりで、父はその家を買った。浪人生…

第四話 予知夢

亡くなった母は、たまに予知夢を見た。と言っても「本人曰く」という前置きつきである。母の話を聞くと「夢に見た通り」というわけではなく、現実に近い夢を見るようだった。 弟が腕を骨折した日の明け方、母は弟の友達が怪我をする夢を見たと。「だから、よ…

第三話 先生の感

前に話した塾の先生は、私の生涯の師匠でもある。風変わりな人だったが、ときどき妙な感を発揮することがあった。 私が中学生のときの話。塾で勉強中のことである。先生が突然「お、Tさんが来るな」と言った。 先生は近くの小学校で剣道も教えていて、他の先…

第二話 軽井沢の山荘にて その二

第一話のときにも書いたけれど、私はあまり、霊というものを怖がらない。もちろん、怖い思いをさせられたら、それなりに怯えるだろうけれど、今のところ、さほど怖い思いはしていない。 それに、私が霊体験っぽいことにあったのは中学・高校のころが主で、し…

第一話 軽井沢の山荘にて

中学、高校のころ、風変わりな塾に通っていた。そこの先生は当時、とある大学の講師も務めていた。その関係で、大学所有の軽井沢の山荘で、毎年夏に1週間の合宿をするのが恒例となっていた。 野鳥の森の中にあるこの山荘は、大学生が管理している。やや古い…