第六話 階段の足音

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 私の実家は、パッチワークみたいな家だった。それは父の努力の成果である。増築を繰り返し、父が、だんだんと大きくした家だ。
 あれは高校1年生のときだったか。3階を増築することになり、そこにはふた部屋ーー私と弟の部屋ができた。
 ある日のこと、階段からカタカタと音がする。弟もいないのに、階段から音がするのはどういうことか? そっとドアを開け見てみると、なんのことはない、祖母がホコリ取りで階段の掃除をしているだけだった。
 そんなことがあり、階段で音がしても気にしなくなっていた。けれど、ある晩、掃除とは明らかに違う音がした。夜8時を過ぎていて、いくら祖母でも掃除をするような時間でもない。
 トントントントン。
 軽やかに階段を上り下りする音。7、8才くらいの子どもが、リズミカルに階段を上り下りするような音。
 トントントントン。
 上っては下り、下りては上るその音は、本当に子どもが遊んでいるようだった。
 これは何の音なのか? 霊なら霊で構わなかった。音の源がなんであるかが分かれば、私は納得する。
 私はなるべく気配を消し、そっとドアを開け、下を覗き込んだ。すると祖母が、同じように見上げている。
「なんだ、おばあちゃんか」と私が言うよりも早く、「なんだ、あなたか。トントンいうから、誰かと思った」と祖母が言った。
 上と下から同時に見て誰もいないのである。
 それから音はしなくなった。音の正体が幽霊か、妖怪か、妖精か知らないが、なんだか楽し気だった足音が消えてしまったのは、遊び場を奪ってしまったようで、ちょっと申し訳ない気がしている。

 六本目の蝋燭、吹き消します。

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