第九話 身代りの犬
祖母の話。
祖母は心臓が悪かったそうだ。私が物心つくころには、すっかり元気なイメージしかないが、頭髪は真っ白であった。ということは、40代前半にはすでに白かったのだろう。病気の影響かもしれない。
祖母は「エコ」という名の犬を飼っていた。私もうっすらと記憶にある。茶色と黒の斑の雑種だったか。性別は覚えていないが、シュッとした顔立ちだった気がする。
犬の躾にはうるさい人で、我が家ではエコの後も犬を飼ったが、家に上げることをひどく嫌った。強風や雷に怯えようとも、家に入れることを嫌い、なんとか外の小屋に戻そうとするので、他の家族と何度も衝突したほどである。本当は犬が嫌いなのではないかと思うほどだが、たまに散歩には連れていくし、なによりエコを飼っていたのだから、嫌いなわけではないらしい。
私は覚えていないが、祖母の病状が悪くなったことがあったそうだ。「今夜が山です」と医師に言われたらしい。
その晩、祖母は夢を見たと言う。エコが吠えている夢だ。幼いころに聞いた話なので、どういう風に吠えていたのか、どう話してくれたのかは覚えていない。
「夢の中でエコがねぇ、ワンワン、ワンワンって、吠えてたんだよ」
そう話してくれたのは覚えている。
父や母から聞いた話と合わせてみると、どうもエコは、祖母が一番危ない状態を脱したその日、口から血を吐いて死んでいたらしい。
「きっとエコが、身代りになってくれたんだよ」
そう話してくれたのは、動物好きの母だった。
祖母は祖母なりにエコを愛していて、エコも祖母が大好きだったのだろう。不思議な話ではあるが、犬ならそういうこともあるだろうと、どこかそう不思議でもない気もしている。
九本目の蝋燭を吹き消します。