第二十話 幼年期の千里眼
同じ職場で働く年上の男性Kに、なにか怪談めいた体験はないか尋ねたところ、「ない、ない!」と即答だった。「お化けなんか見たら逃げちゃうよ」と笑う。しかし、しばらくして「そういえば……」と話してくれた。
Kは小学校に上がるくらいまでの間、人の死期がわかったと言う。顔見知りの人でも、テレビに映る人でも、見たとたんに、死期の近い人はわかったそうだ。
「あ、この人もうすぐ死ぬよ」
子ども故、事の重大さがわかっておらず、感じたままを口にしてしまう。初めのうちは、母親も気にも留めず「あら、どうして死んじゃうの?」などと軽い気持ちで問い返していた。
「車にぶつかって、死んじゃうの」
テレビ俳優はそれから間もなく、交通事故で亡くなったと言う。
テレビの向こう側の人ならば、まだよかった。関係性が、ほぼ無いからだ。しかし、これがご近所ならばどうか。
「Sさんちのおばあちゃん、もうすぐ死んじゃうよ」
こんなことを近所で言われては、母親としても体裁が悪い。
「〇月〇日に、死んじゃうんだ」
日付まで口にする。そしてそれは、的中してしまう。
K曰く「百発百中だった」そうだ。
そのころKは、よく空を飛んでいる夢を見たそうだ。歩くほどの速度で、屋根の上を飛ぶ。上から見ているので、髪の薄い人もわかる。
「あの人、ハゲなんだよ」
子どもの無邪気さ故、そんなことも口にしてしまう。
「そんなことを言ってはいけません! 特に、人様の死を口にしてはいけません!」
ある日Kは、きつく母親に叱られたそうだ。当時のKには、なんで自分が叱られなければならないのか、理解できなかったそうだ。
「大きくなるうちに、わかんなくなっちゃったけどね。そのころは、不思議とか、怖いとかって、ぜんぜん思わなかったな」
私が怪談の水を向けたので、久しぶりに思い出したそうだ。
二十本目の蝋燭を吹き消します。