第二十一話 歩道に立つ男
同僚の女性Nから聞いた、数年前の話である。
私もNも帰宅時間は遅く、Nの場合は23時が定刻だ。当時Nは職場までは徒歩だった。片道30分ほど歩くそうで、なかなかの距離である。
その夜は、傘を差そうか迷う程度の小雨が降っていた。30分も歩くので、Nは傘を差していた。
市役所脇の歩道は、わりと広いそうだ。だが、その歩道の真ん中に、Nに背を向ける形で、小太りの男が立っていた。傘は差していない。
携帯電話でも見ているんだろうか?
Nはそう思ったと言う。少しうつむき加減に見えたそうだ。
だんだんと近づくNに、男はまったく気づくようすがない。Nは気味悪さを覚え、いったん車道を渡り、反対側の歩道を歩いて男を追い越すことにした。
いったい彼は、何をしているのだろう? 気になり、追い越したあたりで振り返る。けれど、男の姿は、もう無かった。一本道で、脇道もない。忽然と消えてしまった、と言うよりほかにない。
そんなこともあってか、Nは今、自転車通勤をしている。
二十一本目の蝋燭、吹き消します。