第二十三話 伏見稲荷大社の狐

f:id:tsukumo9951:20200504133628j:plain
 神社の話をもうひとつ。
 友人Mから聞いた話である。
 Mは「そうだ! 京都へ行こう!」と思い立ち、京都へのひとり旅に出かけた。
 最終日、予定していた観光を済ませたが、まだ時間がある。
「ついでに伏見稲荷も行っておくか」
 そう思い立ち、伏見稲荷大社へ向かった。
 伏見稲荷大社と言えば、千本鳥居が有名で、度々雑誌やテレビでも紹介され、観光スポットにもなっている。全国の稲荷神社の総本宮である。
 Mは本殿に手を合わせ、千本鳥居へ。「途中で、奥の院の案内板を見つけ、正規のルートを外れた」とMは言っていた。私は伏見稲荷大社へはお参りしたことがないのだが、調べてみると確かに別ルートがあり、稲荷山山頂の一ノ峰への時間短縮にもなるのだそうだ。
 奥の院を目指す途中、階段で何かが足にぶつかってきたそうだ。そのためMは、派手に転んでしまった。幸い怪我はなかったので、そのまま奥の院へ。到着してから気づいたのだが、左膝下一面に、なにやら動物のものとおぼしき黄色い毛がびっしりとついている。怖くなったMは、とりあえず奥の院へのお参りを済ませた。後からすぐに他の参拝客や、野球部員っぽい学生たちも来たので、少し安心した。
 正規のルートに戻り、稲荷山山頂の一ノ峰を目指す。しかし、登れども登れども、一向に山頂に着かない。案内図を見た限り、そんなに距離があるとは思えなかった。そうこうするうち、日が暮れ始める。謎の動物の毛のこともあり、Mにまた恐怖心が頭をもたげ始めた。もう少し行けば一ノ峰だと思われたが、下山することにした。
 途中、少し開けた場所に仏像のようなものがあったので、引き返す非礼を詫びたと言う。のちに分かったが、それは荼枳尼天だったようだ。
 この後Mは「たくさん稲荷が祀られているところを通った」と言っている。これは二ノ峰の中ノ社のことだろうか? それとも三ノ峰の下ノ社だろうか? ひとりでいることが不安をかき立て、怖さが募る。
 下りても下りても、人に合わない。自分は本当に下りているのだろうか? 稲荷山から出られるのだろうか? 不安が高まる。
 と、人の声が聞こえた。足を速めると、先ほど奥の院で見かけた野球部らしき一団だ。Mは、ようやくほっとした。彼らの後について歩き、やっとの思いで下山できたと言う。
「やっぱり、神社を『ついでに』なんて思ったのがいけなかったんだ。お狐様の罰が当たったんだ」と、Mは噛み締めた。
 その後、伏見稲荷大社で予想外の時間を取られたため、Mは乗るはずだった新幹線を5分差で逃すという災難に見舞われたが、これに関しては、怪談というよりは不運と言うべきか。
 今もMは京都に対して「ちょっと怖い」と感じているようなので、お狐様のお灸は効きすぎたかもしれない。

 蝋燭二十三本目、吹き消します。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村