第二十五話 風鈴草

f:id:tsukumo9951:20200504133628j:plain
 続けて、職場のNの体験談を。
 Nはマンションの1階に住んでいた。花が好きなNはある日、軒下に風鈴草を植えようと思った。風鈴草はカンパニュラの1種で、白や薄桃、紫といった色の、ベル型の花を咲かせる。種類にもよるが、1メートル以上の背丈になることもあるらしい。
 Nは紫の風鈴草を植えようと思い、ホームセンターに苗を買いに行った。ところが、白い花の苗しか売られていない。しかたなく白い花の苗を買って、植えてみた。マンションの壁も白だったので、なんだか冴えない。「でも、風鈴草だから」と自分に言い聞かせ、せっせと世話をした。
 多年草らしく、翌年も白い花を咲かせた。せっせと世話をしつつも、Nはやはり不満だった。花に罪がないのはわかっているのだけれど、やはり紫がよかった。
「もう。紫じゃないなら、全部刈り取っちゃおうかな」
 草むしりをしながら、そんな独り言を言ったそうだ。
 すると翌年、風鈴草は紫の花を咲かせたではないか。紫陽花は土壌によって色が変わるが、風鈴草でそんなことが起こるとは、Nも聞いたことがなかった。
「私のために、色を変えてくれたんだろうか?」
 そう思ったそうだ。
 だが、残念なことに、このマンションは取り壊しが決まっており、Nも立ち退かねばならなかった。
「色まで変えてくれたのに、私が見捨てたと思って怨んでないかな?」
 Nは私にそう尋ねたので、私は「そりゃあ、怨んでますとも!」と答えておいた。もちろん、そんなことはないでしょう。

 二十五本目、吹き消します。

 

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村