第三十六話 曾祖母の添い寝

f:id:tsukumo9951:20200504133628j:plain

 友人Aがまだ幼いころ、母方の曾祖母、つまりひいおばあさんが存命だった。高齢のため、多くを床で過ごしていたが、寝たきりというわけではなく、それなりに元気だったそうだ。
 ひいおばあさんは娘(Aのおばあさん)には厳しかったが、初孫であるAの母、そして初曾孫であるAを、とてもかわいがっていた。Aはおばあさんの家に行った夜は、ひいおばあさんの隣の部屋で寝ていた。AとAの母、そしてAの妹と、3人で床を並べてていたのだそうだ。襖を隔てた隣の部屋から、ひいおばあさんの子守歌が聞こえてきたと言うから、愛情の深さが伺える。無論Aも、そんなひいおばあさんが大好きだった。
 元気とは言っても、高齢である。Aと過ごす時間は、長くは続かない。ある日、大往生を遂げることとなる。
 ひいおばあさんが亡くなってからも、Aは母に連れられ、おばあさんの家にときどき泊まりに行っていた。
 ある夜、いつもの部屋で寝ていたAは、目を覚ました。けれど、体が動かない。苦しくはないが、ただ体が動かなかった。
 目は動かすことができるので、隣で寝ている母を見た。すると、母が寝ているはずのところに、ひいおばあさんが寝ていた――いや、母は確かにそこに寝ている。母とひいおばあさんが重なっているのだ。こちらを向いて寝息を立てる母に、白い靄のように透けて見えるひいおばあさんが重なっていた。
 けれどAは、少しも怖くなかったそうだ。
「あ、ひいおばあちゃんだ。ひいおばあちゃんが来たんだ」
 そう思っただけだった。
 Aのひいおばあさんが、溺愛した孫と曾孫に会いに来たのだろう。それは怪異と言うよりも、自然なことに思える。

 三十六本目の蝋燭を、吹き消します。

 

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村