第三十八話 犬の幽霊

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 ある霊能者がテレビで「動物の幽霊はいない」と言っていた。この世に思いを残しているから幽霊になるのであって、人間以外の動物にはそこまでの思いはないのだという。
 でも、それは本当だろうか? 第十九話「猫の死神」に書いたが、ドブ川に落ちたところを助けてやった猫は、私にとてもなついた。また第九話の「身代りの犬」では、まるで祖母の身代りになるかのように死んだ犬のことを書いた。
 こうしたことからも、動物にも「思い」があることはわかるのだけれど。

 つい先日の話である。
 AはTSUTAYAの書籍コーナーを歩いていた。すると、棚の影に小型犬がいるのを見かけた。
 Aは犬が嫌いなわけではないけれど、お店の中に、ケースに入れていない動物を連れて入るのはいかがなものかと思った。マナーの問題である。
 白黒のパピヨンだった。かわいがられているのだろう、知らない人たちが行き交う中でも、軽くしっぽを振っている。
 よく見れば、近くに飼い主らしき人はいない。リードもつけていない。
 そこでAは気づいた。この犬は幽霊だ。Aは何度か霊を見たことがあった。10年以上そうした体験はしてこなかったが、久しぶりに幽霊を見ているのだと思った。
 犬は、透けているわけではなかったけれど、気づいて見ると異質な感じがした。立体映像を見ているような感じがしたそうだ。
 私ならじっくり観察してしまい、もしかしたら近づいてみたかもしれない。けれどAは、ちょっと怖かったそうで、近づかず、買い物を済ませて帰ってきたという。
 このTUTAYAの前は、車通りの多い道路がある。犬が轢かれる事故があっても、おかしくはない。
 急な事故で自分が死んだことに気づかず、浮遊霊となるような話はよく聞く。飼い主と楽しい散歩中に轢かれてしまい、突然のことに死んだことに気づかず、お店の中を飼い主の姿を求めてさ迷っている犬の霊を、Aは見たのかもしれない。
 霊のことは、私にはわからない。私が言えるのは、動物にも心もあれば愛もあるということだけだ。

 蝋燭三十八本目、消します。

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