第四十話 白猫天使

f:id:tsukumo9951:20200504133628j:plain

 犬の霊の話をしたら、「うちには猫の霊がいる」 と話してくれた知人がいる。
 Fは子どものころから猫との生活を続けているのだが、彼女の家には猫の霊がずっといると言う。もっとも、姿は見えず、気配だけなのだが。
 その気配は、飼い猫が息を引き取る少し前から現れる。

 子どものころ、Fは北海道で暮らしていた。暖炉のある家だった。暖炉の上には家族写真が飾られ、その中にトラ猫のミヨとFが写っている写真があった。Fの父はその写真を見ながら、ずっと昔に出逢った猫のことを、よく話してくれたそうだ。

 それはFの父が結婚する前の話だった。まっ白な子猫を拾ったそうだ。目が赤かったので、いわゆる白猫ではなく、アルビノであろう。彼はその子猫をとてもかわいがったのだが、残念なことに短命だったという。
「とても悲しかったなぁ。でもね、あの子は今もいるんだよ。見えないけど、いるんだよ」
 Fの父の話は、そう締めくくられる。

 時は流れ、Fには娘が生まれ、父が他界。北海道を離れ、今の家で暮らすようになるまでも、猫はいつもそばにいた。
 引っ越しの時、まりもという名の猫を飼っていた。まりもは病気を抱えていたので、環境の変化が心配だったそうだ。
 その気配を感じたのは、まりもに最期の時が近づいてきたころだった。キッチンと風呂場の境目あたりに、なにかいる。Fの娘も「影が横切ったのを見た」と言い出した。
 Fは、父の話を思い出した。まっ白な子猫。
——見えないけど、いるんだよ——
 きっとあの子が迎えにきたんだと、Fは思った。
「まだ連れて行っちゃダメよ」
 気配に向かってFは言ってみた。けれど、気配が消えることはなく、ほどなく、まりもは息を引き取った。

 Fの猫との生活は終わらない。それどころか、数匹の猫と暮らす生活をしている。
 むろん、お別れもある。
 三四郎、チビ、ふじこ……どの子のときも、キッチンと風呂場の境目に、あの子の気配があった。
 死期が近づくと現れる気配。なのに、嫌な感じはしない。
「天国まで迷子にならないように、迎えに来てくれているんだね……」
 FもFの娘も、そう思っているそうだ。
 その証拠になるかどうかわからないが、F家から旅だった猫たちは、15歳を越える長命だった。
 まっ白な猫天使は、ゆっくりと飛び立つようだ。

 四十本目の蝋燭、吹き消します。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 心霊・怪談へ
にほんブログ村