第三十話 三俣のお地蔵さん
知人Fが高校生のころの話だ。Fには兄がいるのだが、悪性リンパ腫で入院、放射線治療、手術を繰り返していた。医者から「覚悟はしておいたほうがいい」と言われたそうだ。
そんなある日、Fの夢に、亡くなった父が現れた。大きな扉があり、扉には後光が差していた。荘厳な空気の中、扉が重々しく開き、光の中から父が現れた。
「線路の脇の小さな祠に、お地蔵様がいる。お地蔵様に手を合わせ、兄の回復を祈りなさい」
亡き父のお告げであった。
Fは姉にも兄にもこのことを話した。
「そういうお地蔵さん、知ってる?」
「それって……三俣のお地蔵さんじゃないかな?」
姉がそれらしきお地蔵様を知っていたので、兄弟で行ってみると、まさに夢のお告げ通りの祠があるではないか。手を合わせ、兄の回復を祈った。
そのご利益なのだろうか? 兄は、治療の影響は少し受けたものの、元気になった。30年以上経った今も元気で、お酒も飲んでいると言う。
しかし、亡くなったお父様は、どれほど徳を積まれた方なのだろうか? まさに仏界から降臨したかのような登場である。
三十本目の蝋燭、吹き消します。