2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

第三十七話 会釈を返した母子

「もう20年以上前の話だけど……」と、Sは語り始めた。 当時、音響の仕事をしていたSは、地方公演のスタッフとして全国いたるところに飛び回っていた。中でも広島には何度も訪れたそうだ。 ある時、いつもの宿が取れず、数名のスタッフがホテルに泊まること…

第三十六話 曾祖母の添い寝

友人Aがまだ幼いころ、母方の曾祖母、つまりひいおばあさんが存命だった。高齢のため、多くを床で過ごしていたが、寝たきりというわけではなく、それなりに元気だったそうだ。 ひいおばあさんは娘(Aのおばあさん)には厳しかったが、初孫であるAの母、そ…

第三十五話 地方公演

劇団を運営しているY夫妻から聞いた話。 その日、Y夫妻は地方公演のため、劇団員と共に車で、とある劇場に向かっていた。 途中、嫌なものを見た。事故現場である。山道にさしかかっており、車通りは少なくなっていた。ついスピードを出しすぎてしまったのか…

第三十四話 電話回線のドッペルゲンガー

「ドッペルゲンガー」とは、簡単に言えば「もうひとりの自分」である。「三回見ると死ぬ」などと囁かれることもあるが、真偽のほどは定かでない。 同僚Nは、過去2回、もうひとりの自分を感じたことがあると言う。「見た」のではなく、もうひとりのNは、電…