第四十一話 なんだ、霊か
猫の霊で、私もひとつ、自分の体験を思い出した。
高校生の時だ。学校から帰り、自分の部屋に行こうとすると、階段の下に猫がいた。グレーっぽい、トラ柄の猫が、毛づくろいをしている。
私はギョッとした。なんで猫が?
猫は好きだが、飼っているわけでもない猫が家の中にいたら驚く。それに少し前に、知り合いの家に野良猫が入ってきてしまい、出そうとしたら逃げ回って、ひどく苦労したという話を聞いていた。
どうしたらいいのかわからず、そのまま突っ立っていると、猫が私に気づいた。私を見て、ビクッと固まる。
野良猫なら、ここでサッと逃げるだろう。だがその猫は、固まった状態のまま、すーっと消えていった。
「なんだ、霊か。びっくりしたー」
それがその時の、私の感想だった。
翌日、クラスメイトにその話をすると、「なんでそんな感想なの?」と驚かれた。
「だって本物の猫だったら、追い出すの大変じゃん」
そう言う私に「そりゃまあ、そうだけどさぁ……」と、誰もが妙な顔をしていた。
私にとって霊はそんなに怖いものではなく、その辺にいて当たり前くらいの感覚である。しょっちゅう見ていたわけではないけれど、「見えなくてもその辺にいるんだろう」くらいに思っていた。
ところで、この猫の霊がいたのは、第六話「階段の足音」で書いた階段の下である。もしかすると実家のあの階段は、霊の通り道なのかもしれない。
四十一本目の蝋燭、吹き消します。