第十二話 山の上の未確認飛行物体
専門学校を卒業してすぐのことだが、1シーズンだけ、とある山小屋でアルバイトをしたことがある。S山とH岳に挟まれた湿原地帯にある山小屋で、5月の初めにやって来たときは、まだ雪がかなり残っていた。水芭蕉の花が咲いているのはこのころで、
夏が来て思い出す水芭蕉の姿は、巨大な葉っぱである。
蛍の時期を迎えるころには、スタッフはすっかり仲良くなっていた。ひとつの部屋に集まっておしゃべりをしたり、いっしょに仕事終わりの散歩をしたりするのが常となっていた。
ある晩、蛍を見ようと、4人ほどでぶらぶらと湿原に出た。蛍はよく飛んでいて、我々の目を楽しませてくれた。
「あれ、蛍?」
ひとりが、S山のほうを見て言った。その指は、山頂よりも上を指している。
蛍がそんな高いところを飛ぶはずがないし、飛んでいたとしても、か弱い光がこちらまで届くはずもない。
しかし、たしかに小さな光が三つほど浮いていた。点滅していないし、蛍ではないことは確かだ。色も白っぽい。
「ヘリ?」
夜になってヘリコプターが飛ぶことは、あまりない。それに、山の上の光は動きがおかしかった。
まっすぐに飛んでいない。S山の上を、くねくねと曲がった楕円を描くような飛び方だ。三つの光が、それぞれバラバラに動いている。
「人魂だったりして」
私がそう言ったとたん、光はパッと消えてしまった。三つとも同時に。
「UFOだ、UFOだ」と笑いながら小屋に戻り、おかみさんにその話をしたのだが、とくに驚きはしなかった。
「S山の上は、よく飛んでるみたいだよ。〇〇小屋のご主人はよく見ていて、何度もテレビ局に取材されてるよ」
おかみさんの話に、我々は驚いた。どうやらUFOを見たらしいという興奮で盛り上がった。見たのがひとりのときではなかったということが、妙に嬉しかった。
結局見たのはそれっきりだった。宇宙よりの飛行物体かどうかは、我々には判断のしようがない。なにかの自然現象かもしれないが、珍しいものを見たことには変わりないので、私は満足している。
十二本目、吹き消します。